映画『毎日がアルツハイマー2』感想
少し前ですが、おもしろい映画を観ました。
50分くらいのショートフィルムです。
まずは予告をどうぞ。
内容は見ての通り、監督自身とアルツハイマー型認知症の母との日常を映したドキュメンタリー映画です。
テーマこそ重いですが、おもわずクスッと笑えてしまう映画。これは重喜劇と呼ばれたりして、重いテーマをコメディに描く作風で、私はわりと好きなジャンル。最後に人間を救うのは、やっぱり笑いだと思いますから。
それで、私はこの映画を観ながら、親を介護することとか、されることとか、まあ色々考えたんですけど、難しいことは抜きにしてドキュメンタリーとして面白かったです。
すごいと思うのは、この映画を通して監督が伝えたいことを伝えるために、最適な見せ方をしているところです。
憶測に過ぎませんが、監督はたぶん「介護って大変だなー」「認知症って恐いなー」じゃなくて、「大変だけど認知症っておもしろいでしょ!?」「すてきなこともあるんですよ」ってことを身近に捉えてもらいたいと思ったんじゃないでしょうか。
だから監督はちょっと雑然としたいつもの部屋でカメラをまわし、「日常」を映すことにこだわっています。私は映画というより、ホームビデオを見ているような感覚で、自然と映像の中に入り込んでしまいました。不思議と監督のお母さんが自分の身内のような気がしてきて、感情移入してしまいます。
それはこの映画がフィクションではなく、ドキュメンタリーであるということもそうですが、とにかく肩に力が入っていないというのが魅力的な映画なのです。
ところで気を使わない者同士のやり取りって、なんであんなにおもしろいんでしょうか?
劇中で監督が「デイサービスの○○さん来たわよ、行かなくていいの?」と聞くと、お母さんは「いいよ…めんどくせえ」と答え、それでも説得を続けていると、しまいには「うるせえ!!」とか言い出すんですが、監督は冷静に「スイッチ入った」とか言って笑ってます。
こんなやりとりがとてもコミカルに描かれています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最近、認知症特集とかよくテレビでもやってますけど、個人的にあれ、すごく違和感があります。
だってあれ、認知症は悲惨だ!としか言わないでしょ?
だいたい重苦しい音楽と、ナレーションをつけて、徘徊が大変だ!排泄が大変だ!子供のことも忘れてしまう!ってわかりきったことを、繰り返しているだけです。
挙げ句の果てに施設入所者の顔にモザイクかけちゃって、まるで犯罪者みたいに描くでしょ。
そんなことを飽きもせず放送して、一体なにがしたいの?って感じです。
2020年には、認知症患者の数は325万人を超えると言われていて、これは65歳以上の10人にひとりは認知症と診断されていることを意味します。これから日本でもっと増える認知症を、これ以上恐がらせてどうするのか!?
はっきり言ってこーゆう認知症特集は、認知症の理解にはつながりません。
知れるのは症状だけです。症状なんて今更言われなくてもわかりますよね。
今の若者も中年も高齢者も、こーゆうメディア環境で認知症こわいこわいって育ってきてます。だから中高年は認知症になったら終わりだって思ってるし、子供は、親の介護はとても手に負えないから今のうちに介護資金を貯めて、早めに施設にいれようってなります。
それは間違いじゃないんだけど、認知症っていつなっちゃうかなんてわかりません。いくら気をつけていても。
認知症だけじゃなく、がんも脳卒中もなんでも、病気というのはそーゆうものです。
予防予防ってがんばってても、いつかはボケます。しかも認知症の原因って色々絡んでるから、予防なんてしきれない。なるときはなるんです。
だから準備をしたいんです。認知症の人生も楽しむ準備を。
日本では色んな組織が認知症の定義を出してますが、どれも共通しているのは、生活に困ってなければ認知症じゃないよってことです。
例として日本神経学会の認知症の定義を載せておきます。
通常、慢性あるいは進行性の脳疾患によって生じ、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断等多数の…(中略)記銘力や他の認知機能低下を呈している例であっても社会生活や日常生活に支障がない症例は認知症と診断しない
(http://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/sinkei_degl_2010_02.pdf#search='WHO+認知症+定義')
つまり
物忘れがひどいけど、うまく工夫して生きている。これはどうやら認知症ではないみたいです。
認知症になるかどうかは、どーゆう環境で生活しているかが一番大事で、関口監督とお母さんの関係はお手本になると思います。
このお母さん、冒頭の予告の中で、忘れちゃうことはどう思う?って質問に
「幸せだねえ〜」って言ってるでしょ。私はこれがすべてを物語っているように思います。
娘である関口監督は介護に悩みながらも、母の病気の不思議さに興味を持ち、その言動にときには感心したりしています。これって大事ですよね、ある問題に直面したとして、「大変だ〜」で終わるか「なんでこんなことが起こるのだろう?」って興味を持てるかどうかは大きな違いです。
それこそが理解を生み、介護をする上での色々な問題も、乗り越える力になっている気がします。
映画の後半、関口監督はイギリスで行われている認知症治療を学びに渡英するんですが、そこで興味深い話がありました。
とある入所者が、ある日を境に、消灯の時間になっても頑として部屋に戻らないことが続いたとか。その理由がわからず、職員もとても困ってしまい、皆で話し合ったそうなんです。なぜだろう?と。
そしたら娘の話からあるヒントを得ました。
娘曰く、「母は子供の頃、言いつけを守らなかった時、お仕置きとしてせまい小屋に閉じ込められていて、それがとても怖かったと聞いたことがある」と娘に幼少期のことを話していたことがあったのだと。
それを聞いて、職員は仮説を立てました。
もしかしたら、利用者の部屋は2階にあったから、2階に行くまでに乗るエレベーターが、その時の恐怖を連想させていたのではないか。
そこで翌日から、寝室を1階に移したところ、それまでの拒否はパタンとなくなってしまった、というのです。
その話をした精神科医によれば、子供の時の記憶が認知症になってからよみがえることがあるとのこと。
これってすごく興味深くないですか?
ここで大事なのは、人それぞれが持つ個人史です。
医学的な知識とか、そーゆうのではないんです。
だから、専門家に任せればそれで良いんじゃないんですね。
一番親の個人史を知ってるあなたが、親の認知症を理解しうるのです。
...と、 そんなことを言われている気がした映画でした。
※このドキュメンタリーはアルツハイマー型認知症が進行性の病気である以上、現在進行形とのこと。次回作にも期待。
残念ながら現在劇場での上映は終了してました。
DVDはこちら!
↓