ディラン好きの日記

転がる石のように

理学療法士が思う、理学療法士のすごいところ

 

みなさんにとって、自分の仕事の強みって何ですか?
 
 
 私は普段、理学療法士という仕事をしていますが、フツーに生活している分には接することがないので、なじみがないかもしれません。それでも聞いたことがある人は、リハビリをするひとっていうイメージがあると思います。
そのリハビリをするひとが、私の仕事です。
 
ちょっと前に、ちきりんさんの『マーケット感覚を身につけよう』を読んで、理学療法士が提供する価値ってなんだろう?と考え始めたのがこのエントリを書こうと思ったきっかけです。

 

 

それで理学療法士についてなんですが、高齢化社会が進んでニーズが高いとか言ってる割に、どんな能力があるのか?っていうのはあまり知られていません。
リハビリをするっていうのはその通りなんですが、重要なのは“リハビリをする”って、つまりなにをしてんの?っていう話なんです。
 
理学療法士は法律上、医師の指示の基に理学療法を提供しますが、たとえば病院で、医師からの要望というのは、
「離床(=ベットから起こして活動量を上げること)」だとか、「拘縮予防(関節が固まってしまうのを防ぐこと)」をして下さいという感じで、地域社会において国から求められてるのは、「生活機能の維持」とか「転倒予防」だったりするのですが、
 
たとえばベットから起こすことや、関節を動かすことって、看護師でもできると思いませんか?
地域での身体機能維持とかも、散歩に同行できればヘルパーさんにもできるし、エクササイズなんかもマニュアル化して指導すれば、理学療法士じゃなくてもできそうですよね?
 
このように、こと高齢者に対しては、リハビリ=介護に近いイメージを世間では持たれているように感じます。ここにおいてリハビリはマンパワーとしての人材という意味合いしか持っていません。
 
これはスポーツでケガしたことのある若い人が、ケガ=リハビリというイメージを持つ中でも同じことが言えます。
捻挫した時テーピングを巻くのも、柔道整復師もできるし、ヘタすりゃスポーツ愛好家だってできてしまいます。これを私たちの仕事と言ってしまうのは、専門性の低い仕事と言っているのと同じことです。
 
当たり前ですが他の職種の人がカバーできちゃう仕事というのは専門性とはなりません。これらのことは厳密に言うと、治療の中でそーゆう手段を用いることはあるけど、それをすることが理学療法士の仕事とは言わないんですね。
なので世間一般のイメージから考えると、理学療法士はリハビリをする仕事です。というのは、ちょっと違和感があるな、と思ったりします。
 
 
ところで自分の仕事の専門性を考えるときに、普段先輩や講師になっている理学療法士をみてすごい!と思うときはどーゆうときだろう?と思い返してみました。
私が理学療法士ってすごいな、と思うときは、たとえばこんなシーンをみたときです。
患者:投手をやってるんですが、投げるとき肘の内側が一瞬痛むんです。だんだん痛くなってて…
PT:なるほど、ちょっと普段の投球フォームを見せて。…うん、肘があがってないね。腕を振り抜く時に手首だけでなげてしまっているんだよ。このときの肘の痛みは、肩甲骨の動きを制限している筋肉の柔軟性を上げてから、正常な肩関節の運動を学習させることでとれると思うんだけど、それだけじゃだめだね。
患者:だめって…どういうことですか?
PT:またすぐ痛くなるよ。君の問題は、肩というよりもむしろ脚にあるから。
患者:え?脚?でも先生、脚はどこもわるくないですよ?
PT:君の場合、痛みが振りかぶってからボールが手を離れるまでの一瞬の間に起こっている。このとき左足に踏み込むことになるけど、そのとき腰も一緒に左に流れてしまっている。つまり、左脚を支えるための脚の筋肉が弱いことによって、重心を前に移しきれないでいる。そうするとね、腰の回旋運動が妨げられる。運動は連鎖していくから、骨盤が求められる運動をしないせいで右の肩甲骨も前に出ず、引けたまま投げることになる。このようにして、前方への運動エネルギーの連鎖がうまくいかず、さいごは末端である手首で代償することになる。 この肘の痛みの根幹にあるのは、足腰の弱さなんだ。さっきチェックさせてもらった感じだと、その中でも足趾の屈筋と前脛骨筋、殿部の筋力が弱いね。肘が痛みだしたのはいつから?
患者:3ヶ月前くらいからです。あ、そういえば…そのちょっと前に自転車で転んで左足を捻挫してました!
PT:もしかしたらその時のケガが影響してるかもね…。左足をかばいながら投げてたから、そのクセがついてしまったんだよ。それじゃあ、治療をはじめよう。

 ※このやりとりは、私が肩に関する勉強会に参加した際、参加者の中にピッチャーをしている人がいて、実際に講師にデモンストレーションを受けている一場面の様子です。大体こんな感じのやりとりでした。

 

 上の例では痛みの場所は”肘”にありましたが、その原因は”脚”でした。
このような原因を取り除くための治療は対症療法ではなく、原因療法です。
理学療法士は手術をして治すことはできないので、動作をよく観察します。その動作を分析するひとつの根拠として運動連鎖を考えます。
ここでは、社会人野球のピッチャーの肘の痛みを想定しましたが、脳卒中の後遺症や整形外科疾患をみるときも同じです。
 
たとえば医師は直接的に疾患に対して治療しますよね?
その評価方法は、レントゲンやCT画像であったり、血液データであったりして、その評価を元に、投薬・手術という方法を使って治すわけです。医師の場合評価はすなわち、診断を意味します。
 
一方、理学療法士という仕事は、動きというものを治療対象にしています。
治療の結果、動きが変わらなければ意味がありません。そして動いた先の生活が変わらなければもっと意味がありません。
そしてどうやって治療をしていこうか考える際の一つの手段として、運動連鎖という観点から動作を評価していきます。
もちろん血液データや画像、疾患情報や手術方法、飲んでいる薬などの医学データは、考察の根拠として、またリスク管理をするために把握しています。
 
運動連鎖とは、人間の身体は動きに伴って、隣接する関節に影響を与え、絶えず連動して動くことを意味しますが、この運動連鎖を基本として治療を進めるというのは、理学療法士が最も得意とすることです。
今や理学療法士の専門も様々に分化していますが、運動連鎖の知識がベースにある上で、様々な理論を取り入れて治療を行っています。
 
私はこの、運動連鎖を軸とした動作評価を行えるという点が、他にはない、特異的な強みかなと思います。
 
逆にここがしっかりしていない治療や運動指導は、他の職種にとって替わられても仕方がないということです。インストラクターや介護士と同じことをしてるようなら、よりコストの安い方が市場に選ばれるのが我々が生きる資本主義社会というのものではないでしょうか。
 
今、国が地域で高齢者をみるセーフティネットとして、地域包括ケアを推進していますが、理学療法士の役割として、日常生活動作(ADL)の予後予測ができることを評価されているようです。
確かに!と思ったんですが、理学療法士しかできないかと聞かれれば、作業療法士もできそうだな、と思い、理学療法士のすごいところとしては挙げませんでした。
ですがこの点においても地域包括ケアでのニーズは今後高まりそうです。
 
 
みなさんもこの機会に自分の仕事の専門性ってなんなのか。ぜひ考えてみて下さい。
これは専門職に限った話ではありません。営業でも事務職でも、他に代替できない価値はなにか探してみましょう。
今回読んだ『マーケット感覚を身につけよう』は企業のみならず、様々な市場を対象に、価値に気づく能力(=マーケット感覚)を養う事例が豊富で参考になります。
 ↓

 
これができるってすごいなーと自分自身が思えて、
なおかつ他の職種にはできないことであれば、それは間違いなくその職業の専門性であり、確実に身につけなければならない能力なのだと思います。
 自分がどのスキルを身につけなければならなか迷った時、
自分の専門性とは、誰にどんな価値を提供しているのかを考えてみると良いのかもしれません。