ディラン好きの日記

転がる石のように

医者になることのコスパについて考えてみる

 

「医学部を目指せ」

とはよく言われたものだ。

 

 

我が子に医者になってもらえたら…!

という親の想いは、いつの時代も…少なくともじいちゃんばあちゃんから続く、親子3世代に渡っては、共通するものだと思う。

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私もまた受験生のころに、「医者になったら?」と親に言われたことがある。

親だけじゃなく、親戚中が「医者以外は認めない」みたいな雰囲気を醸し出していた。

でも当時の私は、頑なにその要求を拒んだ。

それは学力的に目指せなかった、ということ以上に

きっと、すでに目指していた道を否定された気分になって反発してしまったことが半分、

もう半分は、『医者になるなんて、コストがかかりすぎる』と思ったから目指さなかった。

 

 

立派な医者になるまでの道は険しい。

独学で勉強して入学してくる猛者がいた昔とは違い、

ほとんどの医学部志望者は、予備校の「医学部受験コース」に入らなければ熾烈な競争を勝ち上がれない。

 この予備校代だけでも、年間100万円くらいはかかる。

他にも、夏期講習、冬期講習、模試、参考書など、もろもろにお金がかかる。

医学部受験は熾烈な競争なので、2浪くらいは当たり前、みたいな認識がある。

そうすると医学部入学までに200万以上はかかると覚悟しておいた方が良い。

 

 

地獄のような2年間の浪人生活の末に、ようやく私立の医科大学に入学を果たしたとしよう。

ここからが大変だ。

 

私立大医学部の6年間にかかる学費は、大体3000万円以上だ。

これは国立大学と私立大学では大きな差があり、国立大学では350万円程度、私立大学のなかには5000万円以上かかるところもある…。

(参考:医学部学費ランキング 私立医学部と国立医学部 偏差値ランキング図書館

 

 

勉強漬けの浪人生活から、晴れてなった憧れの大学生。大學生活も結局勉強で忙しかった。進級テストも、臨床実習も国家試験も無事突破し、ついに医者になった頃には

26歳、3500万円の負債を抱えていることになる。

ここからすぐに取り返せるかというと、そうではない。

2年間は研修医として働くことになるからだ。

平均年収.jpによれば、

大学病院で研修医の平均年収は300万円とされている。

病院によって多少の開きがあるとは言え、一般企業の1年目の年収と同じくらいと考えていい。

 

28歳で研修を終え、ようやく医師として各科に配属されることになる。

ここで概ね二つの道に分かれる。大学病院に行くか、民間の病院に行くか、だ。

 

 

キャリア3〜5年の医師の年収は、

民間病院で600〜800万円

大学病院では400〜600万円

と言われており、思っていたよりも大学病院の医師の給料は安い。

 だが、大学病院を選ぶことで、自分の研究したい分野を深める環境が整っていたり、教授への道も開かれることから、選ぶ人もいるらしい。

 

ちなみに10年選手の勤務医で、平均年収は1000万円前後だそうだ。

(参考:http://医師の年収.jp

 

まとめると

・医者になるまでの期間:浪人2年+大学6年+研修医2年=10年

・かかったコスト:予備校300+学費3200=3500万円

 

大体こんな感じかな?

つまり医者になるためにかけたコストを、

医者になって取り返す頃には、すでに32歳 くらいになってる。

 

尚、私立大学の文系を出て、普通にサラリーマンした人と比べると、

 

大学4年間の学費:ー360万

社会人1〜4年目の給料:+360万

 

23歳の社会人一年目で、大学学費分を取り返して、

 

 社会人5〜9年目の給料:+450万

 社会人10〜14年目の給料:+520万

 これを参考にすると、

一般的な社会人が32歳までに稼ぐ給料は

360×4+450×6=4140万

大学4年間の学費を差し引いて

4140ー360=3780万

 ※平均年収.jpを参考に計算

 

医者が32歳に、それまでかけた学費を取り返している頃、

普通の文系の大学を出て、普通にサラリーマンしてきた32歳は3780万を得ている。

 

じゃあ医者の稼ぎがサラリーマンを超えるのはいくつになってから?という疑問は、各自平均年収を参考に計算してみてほしい。

 ※ここで出した数値はあくまで概算です。数字に出てこない面(激務、ストレスの大きさ)を考慮すれば、さらにコスパは悪くなると言えるかもしれません。

 

 

「医者になれ」

と助言してくれた、親や親戚は、自分の見栄とか、そーゆうことで医者を薦めたわけじゃないだろう。

今にして思えばきっと、私の将来を本気で心配して言ってくれた、暖かい言葉だった。

 

 

でも、私はこんな時間とコストをかけてまで、なりたいとは思えなかった。

そこまでの“覚悟”がなかったし、そこまでの“魅力”も感じることができなかった。

申し訳ないのだけど…。

 

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なるために時間がかかる分、医者は最も長く続けやすい職業と言って良い。

 

産業医科大学教授の松田晋哉氏は、

高齢者が働き続けられる条件というものを3つ挙げていた。

 

・専門的技能を持っていること

・職・住が近接であること

・健康であること

 

 これを見ると、特に開業医は自営業であるため、定年制度というしがらみもなく、これらすべての要素を満たしやすい。

さらに高齢化社会で定年は引き上げられるから、これからは嫌でもみんな長く働かなくてはならないかもしれないし、医者という職業のニーズは増すばかりだ。

 

 医者になることのコスパが高いと感じるか、低いと感じるかは

『若い頃をある程度犠牲にしても、長く働き続けたい』のか、

『若い頃に早く社会に出て、年取ってからはなるべく働きたくない』のか、

そのどちらの立場に立つか、ということなのかもしれない。

 

 しかし現実にはそれ以上の要素が関与している。というのが、私がこのエントリで暗に示したいことである。

なぜ親が医者である子供が医学部へ進みやすいのか。

なぜ勤務医はすぐ開業したがるのか、それはどういう医者なのか。

 

その点もぜひ考えてみて頂きたい。