浦沢直樹展「ボブディランを聴いて歌って描きまくる」に行ってきた
世の中がベッキーで湧いている頃、
私の目にはとんでもないニュースが舞い込んで来ました。
『2016年 3月 ボブ・ディラン来日公演 決定』
私は数年前ディランのLIVEに行き、一度ディランを嫌いになった経験があるので、ディラン来日という言葉を聞くと、トラウマティックに反応してしまうのです(笑)
とはいえ、あの頃から私も成長しているのだし、ディランも変わっているだろうから、これは観ておきたい。いや、ディラン好きとして観ておかなければならない...!
使命感にかられ、ソニーミュージックのサイトを見ていたら、今日のイベントを見つけました。
漫画家の浦沢直樹さんの個展『浦沢直樹展 描いて描いて描きまくる』が世田谷文学館で好評開催中ですが、今日は「ボブ・ディラン 聴いて歌って描きまくる」というイベントが開催されるということで、
やってきました。
世田谷感がすごいです。
チケット購入特典はBILLY BATのカステラ
私は漫画家・浦沢直樹さんのファンというわけではないし、「ボブディランを好きな人」ということくらいしか知りません。代表作の『20世紀少年』も読んでない。だから「ボブディランを聴いて歌って描きまくる」というイベントタイトルを見たときは、誰かディランを歌う人が別にいて、浦沢さんがそれを聴きながら絵を描きまくるのかと思ってました。だから登場してすぐにアコギをとり、「風に吹かれて」をディラン風に歌う浦沢さんを見て、私はあっけにとられてしまいました。
なんと浦沢さん、この度CDアルバムを出したそうで、ギターは上手いわハーモニカは振るわせるわ歌声は渋いわで完全にアーティストだったのです。
今回はこのアルバムのプロモーションも兼ねていたようで、いくつか自前の歌を披露してくれたのですが、これがまた良かった。全然そんな気なかったのに買ってしまいましたもんね、CD。最後にサインまでしてもらっちゃったんですけど、私が「斉藤和義っぽいと言われませんか?」という(恐らくアーティストの立場だったら、他の歌手に似てるというのは失礼な発言だと思うのですが)質問に、
「実は(斎藤和義と)仲良いんだよ。あいつが俺の真似をしたんや、ガハハ」と気さくに応じてくれて懐の大きい人だと思いました。
さらに私が同世代にディランを共感されないことを言うと、「友達に共感されないだろ?俺もそうだった」と言っていたので、やはりボブディラン好きは皆、周りに共感されず、悶々とした時期を一度は通るのですね。みうらじゅんも同じようなことを言っていた気がします。
@dylan_zuki: まさかの浦沢先生の歌が良すぎて、CD買ってしまった。サインまでしてもらっちゃいました #浦沢直樹展 pic.twitter.com/I8Kb524vTF
— ディラン好き (@dylan_zuki) 2016, 1月 31
浦沢少年とディランの出逢い
浦沢さんはトークの中でボブディランとの出会いを話してくれました。
浦沢さんもみうらじゅんと同じく、吉田拓郎を追いかけていくうちにディランに行き着いたのだそうです。それはやはり ”よしだたくろうブーム” の中を生きた人らしいし、その世代は皆、よしだたくろう→ディランという順序を辿ったのでしょう。
そして”ガロ”の『学生街の喫茶店』で出てくる ” 片隅で聴いていたボブ・ディラン〜♪ ” というフレーズが気になってしょうがなくなり、レコード屋へ走るのです。
私はたまたま父親が車で流してたPP&Mの「風に吹かれて」を聴いて、ディラン→吉田拓郎というコースを辿りましたが、『学生街の喫茶店』の歌詞でボブ・ディランをもっと知りたくなる気持ちは同じだなと思いました。なんかあの時代の大学生ってカッコよく見えてしまうんですよね。だからその大学生が聴いていたディランって何よ?っていう好奇心が生まれる。
浦沢さんがすごいのは、中学2年生で難解なディランの曲を、投げ出さずに一から聴き続けたことです。この時のことを浦沢さんは「何度も逃げ出しそうになった」と表現していました。この気持ちもすごくわかります。私の場合、早々に逃げ出して『Essential Bob Dylan』などのベスト盤に手を出してしまったので、ディランが歩んできた時代の変遷がわからない、という事が起こってしまい、今になって後悔しているところです。
ちょうどそんなことを思っていた時、
今まで発売されたアルバムを一つずつ挙げながら、ディランの活動を振り返るコーナーが始まりました。「この頃は彼女と別れそうだったからジャケットの表情も歪んでいる」とか「3作続けて同じ服を使いまわしてる」とか、解説されなきゃ気付かないことが多く、とても勉強になりました。浦沢さんが発見した「右方向から撮られた写真と左方向からのそれでは顔が違う」という研究はめちゃめちゃ面白かったです。
このコーナーのおかげで、時代の変遷と共に変わるディランの全貌を捉えることができたので、「ボブ・ディラン学」の講義としてめちゃめちゃ面白かったです。ディラン初心者にとっても、マニアにとっても最高の内容でした。
本当に「歌って描きまくった」浦沢先生
イベントの趣旨である「ボブディランを聴いて歌って描きまくる」ですが、浦沢先生(ここからは漫画家要素が出てくるので”先生”とします)、なんと文字通りのことをやってのけました。しかもひとりで。
その方法は、
①まずギターでディランの曲のメロディを弾いて、それをループ再生させながら→②ギターをペンに持ち替えて→③モニターに映された紙の上に曲からイメージした描写を描き→④またギターを持って弾き語りをして終わる
あまりの素晴らしさに「あんた、誰やねん」とツッコミたくなるような神業でした。『くよくよするなよ』のアルペジオとか最高にカッコよかったです。
浦沢先生作:ボブ・ディランの大冒険
ディランを愛する人って、ディランの理解できない部分も含めて好きだから、例えディランが期待外れなことをやっても笑い話にできますよね。
きっとそれぐらいの気持ちで見てないと、ついていけないのだと思う(笑)
このイベントの模様は、一部LIVE配信してたみたいなのですが、放送前に観客の前だけで流してくれた、モノラル盤、ステレオ盤、リマスター盤の『Like A Rolling Stone』のレコード聴き比べはワクワクしました。当時の発売背景とか、レコードの回転数の話とか、浦沢さんとソニーミュージックの人の解説付きという豪華な聴き比べ。レコードの音を初めて聞いたけどクセになりそうです。
とにかく、すごいイベントに参加してしまったな、、というのが感想です。
伝説的な回だったと思います。
今回のようなイベントはレアだとご本人も仰せられてましたが、またやってほしいです。
今まで「浦沢直樹」はすごい漫画家のひとりに過ぎなかったけど、同じ「ディラン好き」として親近感を持つことができました。
今後は漫画家の浦沢先生のみならず、アーティストの浦沢さんに要注目です。
ちなみに浦沢直樹展は3/31までやってるみたいなので、まだの方はぜひ。
浦沢さんの歌声が聴けるCDもおすすめです