ディラン好きの日記

転がる石のように

社員旅行に行ってきました。(前編)

 

「ババアだった。アタミ死ね」

普段温厚な社長がファッションヘルス店から出てきてこのような暴言を発したのは、先日の社員旅行でのことだった。

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「社員旅行をしましょう」

朝礼で管理者が発したこの言葉。一度は聞こえないふりをしていたが、ついに現実のものとなってしまった。

冷え切った職場の雰囲気をKAIZENするのが狙い、とのこと。まじKANBENである。

というのも、企業に勤めている皆さまにとって社員旅行といえば、他部門のピチピチギャルとの交流のチャンスであるかもしれない。だが、私にとって弊社の旅行は親世代の方々と行く孝行ツアーに他ならないのだ。

 

後日、出欠アンケートが回ってきた。

リハビリテーション部の諸先輩方は総じて欠席にマルをつけている。管理者は旅行の提案の後、念を押してこう言っていた。

「出欠にあたっては、少なくとも各部署から一名以上は参加するように。」

最後に私にアンケートを回すとは悪意しか感じない。恨んでやる。

 

こうして総勢10名の社員旅行が熱海にて開催された。最年少、20代は私ひとり。男は私以外に社長と福祉用具のF氏のみ。それ以外は全員アラフィフのギャル達だった。

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10年ぶりの熱海は当時に比べ、随分と活気を取り戻していた。

着くや否や、社長は当時のバブル入社組の熱海旅行はすごかったことを私に力説してくれた。F氏も「あの時は何でもありでしたね〜」と懐かしそうに目を細める。彼らは元々、別の業界にいて、ひと通り華やかな時代を経験済みなのだ。

私の知らない刺激的な時代の話に花を咲かせていると、前の方で女性陣が騒いでいる。

どうやら昼飯をどこで食べるかで論争が勃発しているようだ。これは私の偏見かもしれないが、専門職のババアが集まると物事が首尾よく決まらない。そのくせ団体行動は取りたがるから大変だ。結局社長が店を決めることになり、入った店が激マズで全員から大ブーイング。一件落着というパターンでこの職場は成り立っている。

 

ホテルに到着すると、ロビーは観光客でごった返していた。

チェックイン云々に手こずるF氏に、アラフィフのギャル達はブーイングを浴びせる。

この業界では男の立場は非常に弱い。F氏は強制的に幹事に仕立てられた挙句、プラン決めに際しては仕事でもないのに管理者に呼び出され、ダメ出しを受けていた。

社長にしても同じだ。社長は「社長」というポジションにいるけれど、物事の決定権はいつも管理者にある。都合の悪いときだけ、その権利は社長に移譲されるのだ。

 

チェックイン後、ホテルの一室に男達は集まり、それぞれやってらんねーという話をした。

社長「熱海にまで来て、この仕打ち。俺が何をした?」

F氏「いや社長、あれはさすがに不味すぎましたよ...。それより俺ですよ!なにが悲しくて、ババア達にこき使われなきゃいけないんですか」

D「今のところ、なんにも楽しくないですよ」

 

そして仲間達は今夜、外出の計画を立てる。

とにかくもう、ババアのいる旅館には帰りたくない。

 

夜、旅館にて食事を終えて、部屋に戻り、飲み会が始まった。

食事の時からお酒が入っていたこともあり、皆一様に酔っていた。私たちは外に出る機会を今か今かと伺っている。

しばらくして、女性陣から買い出しを依頼された。

それは「アイス買ってきて〜♡」という依頼だった。ババアのアイスほど胸糞悪いものはない。

だがこの時ばかりは、待ってました!!とプランAを発動。

男達はそそくさと身支度を整え、部屋を出る。去り際に「早くね。」と念を押されたが後ろは振り返らなかった。

 

地獄から解き放たれた3人。

これからが本当の社員旅行!あの素晴らしい夜をもう一度!はしゃぐ男たち。

しかし熱海の夜は想像以上に冷たかった。

駅前の商店街はどこもシャッターが下りていて、人の気配がない。

D「社長、これ大丈夫ですか?(汗)」

社長「大丈夫、熱海でこれは想定内だ。」

しばらく歩いていると、ようやく明かりが点いた居酒屋を発見した。

F氏「とりあえずここ入りますか」

D「え?繁華街は?」

F氏「バーロー、まずは地元の人間から情報収集すんのが定石だろうが」

さすがF氏、バブルを生きただけはある。

 

中に入ると、

広くない店内に60歳くらいのお父さんが一人、厨房に立っていた。

客はふたりしかおらず、地元の人らしいおじいさんと、活気のあるおばあさんがカウンターに一つ席を挟んで座っている。

おじいさんはこのおばあさんに恋をしているのだろうな、と私は思った。或いは、昔に何かあったのかもしれない。おばあさんの方へ半身を向けながら上機嫌に酒を酌む。

私たちは地元民の温かい雰囲気に囲まれて、しばし談笑した。これこそが旅行の醍醐味だ、と私は思った。

 

しばらくしてF氏が熱海のナイトスポットについて彼らに尋ねると、皆口を揃えてある場所を口にした。「熱海と言えば〇〇」「〇〇が一番賑わっている」

数十年前に比べて活気はなくなったものの、熱海の繁華街と言ったらそこしかないらしい。

社長「平成生まれの君にバブルの夢を見させてやるよ」

D「よっ社長!」

F氏「大統領!」

 

昭和チックなノリで盛り上がっていたその時、F氏の携帯に着信が入った。

 

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F氏の顔が、凍りつく 。「どうした?」と画面を覗き込む。

管理者からの着信だった。

(つづく)