部屋とプレハブと私
最近気づいたことがある。
去年から住んでるアパートが、
プレハブだった。
都心
駅近
築5年
バス・トイレ別
2階以上
南向き
インターネットでこれらの検索ワードに引っかかって出てきた今の物件。
決める際は周辺の不動産屋を回ったが、条件に見合う物件はどれも私が見積もった家賃を軽く超えてしまう。家賃手当ゼロの弊社に勤めております私の絶対に負けられない戦い。やはり君に決めた。
さっそく申し込んだ内見。いざ拝見。
そしたらなんとオープンクローゼット、打ちっぱなしの壁、壁に内蔵された本棚。いわゆるデザイナーズ。即日・即決。デキる男は決断が早いのだ。
初めての一人暮らしに浮かれた春。
夏。南向きが災いした。
最高の陽当たり、壊れたエアコン。ショーツはボディコン。扇風機を買いに駆け込んだ深夜のドンキ。世界で一番暑い夏。もうダメかと思った。
慣れてきた生活、快適な秋。やっぱりこの家サイコーだ。
冬。寒さで目覚める早朝5時。離せないエアコン、枯れる喉。患者様のお宅にあった電気毛布を見て即日購入。毛布にボディコン。ダメだ顔が寒い。目覚める5時。
これはおかしい、家なのになぜこんなに寒いのだ?初めて持った疑い。
壁を叩いてみる。いい音がした。こだまでしょうか?いいえプレハブでした。
そういえば、壁に備え付けられた本棚、おしゃれだと思って見過ごしていたが、この空間は怪しい。入れ忘れられた断熱材。軽量鉄骨万歳。
これが噂のデザイナーズ・プレハブ。今年流行るかも。
だが、うちのプレハブ、悪いことばかりではなかった。
近頃、夜になるとテレビを消して勉学に励む時間を作っている。静寂に包まれる部屋。DSで基礎から英語の再学習。そんな時どこからか聞こえてくる、あ〜んイヤ〜ン。そういえば-ian、-ionの前はアクセントが強くなるんだっけ。これセンター必修。
Selectボタンは押しても、誤ってerectボタンは押さないよう、DSに集中、集中。
きっとお隣も英語の勉強の真っ最中なのだ。良ければご一緒に、プリーズ・テルミー。
そんな私の悲痛な叫びは、強い雨音がかき消した。
築5年
駅近
バス・トイレ別
2階以上
南向き
デザイナーズ
プレハブ
これが、サービス業従事。社会人3年目の、独り暮らしの男のリアルだ。
いつかこのプレハブを思い出してきっと泣いてしまう。
だがこの不都合さもまた、特別なものなのかもしれない。
私はここで、もう少し夢を見ていたいと思う。
春はもうすぐだ。