ディラン好きの日記

転がる石のように

頼むから巻き込まないでほしい

 

疎遠になっていた友人から久しぶりに連絡がきた。

お互い社会人になったのだし、久しぶりに飲みにいかないか、との誘いだった。

もう5、6年経つけど、そういえばあの頃は良い思い出を共有させてもらった。

旧交を暖めようと、私たちは有楽町の古びた居酒屋で再会を果たした。

 

f:id:dylan-zuki:20150524205926j:plain

久しぶりの彼は、スーツを身にまとい、髪も短くまとめていて、あの頃よりも浮ついていなかった。

思い出話から華が咲き、「あの頃はチェリーボーイだったがその後どうなった」「なあに、ひと皮むけただけさ」などと下世話な話をしていると、酒が回り、気分も良くなってきた。

話は仕事のことになった。

今はなにをしているかと聞かれたので、

家に伺ってリハビリを売りこむ詐欺師をしている。と答えると

彼は真剣な顔をして言った。

「詐欺はいけない。それはやりがいを感じられるのか」

先ほどまでのテンションではいけなかったと後悔していると、彼から矢継ぎ早に質問が飛んできた。

「なぜその職業を選んだのか」「仕事は楽しいか」「給料はどうか」「何時に帰れるのか」「夢はあるのか」…

私は私なりの職業観、将来の展望を話した。それはある程度、明確だったと思う。

端から見れば十分とは言えないかもしれないが、現状にはそれなりに満足していて不満はなかった。

 

彼はどうやら現状に満足していないようだった。

今度は私が、「夢はあるの?」と尋ねると

 

彼は「BARを経営したい」と言った。

 

今彼がやっている仕事とは分野がまったく違うので

「へぇ〜なんでBARなの?」と聞くと、どうやら知り合いにBARを経営している人が居て、そのツテがあるらしい。それに、「お酒が好きだから」と彼は付け足した。

「今の職場でこの先ずっと働いていくことはイメージできない。給料も良いとは言えないし、将来性もないし…」

うん、同感だ。

 

「俺は早く親に楽させてあげたいんだわ。女手ひとつでここまで育ててもらったし。親も年取ってきて今後色々と心配もある。俺の夢は自分の店を持って、母親と一緒に店に立つことなんだよ。そのためには今の給料じゃいつになるかわかったもんじゃあない」

 

彼の目は純粋でキラキラしていて、今どきこんなヤツいるだろうかと、私は感動してしまった。

彼の夢を応援したくなった私は、具体的にどうやってその夢を叶えるのか、聞いてみたところ

30歳までには店を開きたいらしいが、それ以外はかなり具体的じゃない返事が返ってきた。

だが、彼の志が素晴らしいものであることに変わりはない。私はあれこれ、彼の夢を叶えるにはどうしたらいいか、余計なお世話だと思いつつ考えてしまった。

 

すると彼は、「私に会わせたい人がいる」と言った。

その人は元々一流企業に勤めていて、今は別の企業に引き抜かれていくつもの事業を抱えているバリキャリ系らしい。会えば絶対良い刺激がもらえるよ、と彼は言った。

気は進まなかったが、友人の気迫に負け、了解した。

 

30分後に仕事を終えたバリキャリ系ビジネスマンがやってきた。(見た目がガリガリ君に似てたので、以後、このビジネスマンを「アカギさん」と呼ぶことにする。)

友人とアカギさんは、なにかのサークルで出会ったらしい。ふたりとも目がギラギラしていた。

友人はアカギさんに「こいつも良い夢持ってるんですよー」と紹介した。

今度はアカギさんに質問攻めにあったが、しゃべりがうまく、営業がうまそうな印象を受けた。

「君はもっと人生楽しむべきだよ!」とアカギさんに言われた。

アカギさんは、元は某一流企業に勤めていて、休みも惜しんで仕事をしていたが、この先の人生も同じことを続けていたくはないと思い、転職。今は自由な時間を使って、ビジネスも遊びも全力で楽しんでいるらしい。

そんな武勇伝を聞くうちに、私も「そうか、もっと楽しまないと!」という気持ちになっていた。

 

彼は2冊の本を私に紹介した。

そして、「まずこの本を読むべきだ」と私に言った。

この本を読めば、考え方が変わるらしい。友人も横で「うんうん」と頷いている。

アカギさん「人生を楽しむためには、色んなことから自由でなければならない」「それは時間とお金だ。この二つから自由になれれば、君の人生勝ったようなもんさ」

友人「俺もまだこの本読めてないからさ、これから一緒に読もうよ!」

私「はあ、でも時間とお金から自由になるなんて、そんなおいしい話なんてあるんですかね?」

アカギさん「それがさ、あるんだよ。俺らのグループがあって隔週で飲み会やってるから、今度来ると良い」

 

私はそれとない返事をして、その日ふたりと別れた。

 

f:id:dylan-zuki:20150524210404j:plain

夜のビジネス街を歩きながら、私は嫌なことを思い出していた。

紹介された本のうち一つは学生の頃に読んだことがある。だが、私がその本から受け取ったメッセージは、彼らが受け取ったそれとは、少し違っていたようだ。

 

そーゆうことは、前にもあった。

私は、彼らがやろうとしているビジネスを否定するつもりはない。それで彼らが言う幸せが手に入るのであれば、勝手にやったら良い。実際成功している人もいるという。

 

だが、私が「自由やお金」を手に入れようとする道筋には、私のやり方がある。

「お金」「時間」が手に入るのは魅力的だが、そのビジネスをやりたいかどうかと言われると、やりたくないだけなのだ。

 

友人が話してくれた夢は、色褪せることはないだろう。願わくば、そのキラキラした夢がいつまでも輝いていることを祈るばかりだ。

心の底から「自由」と「お金」を信じる友人は、こんな素敵なことはない、と私を誘ってくれた。

彼の語る夢に私は大いに感動した。

だが、もう会うことはないだろう。

 私はキラキラしたその夢の続きを二人で語りたかった。師匠など交えずに。

 

彼には、そのビッグな夢をどうか追い続けて欲しい。 そして具体的な行動を起こしてくれることを願う。

30歳までにBARとやらを開きたいのなら、もう自己啓発されている時間はない。そう考える私は、少し焦りすぎだろうか。

 

あれからというもの、彼からの連絡はしばらく続いた。

もしもう一度その素晴らしい夢の話をしてくれるなら

私のことはどうか、

頼むから巻き込まないでほしい。