「深夜番組」化するウェブコンテンツ
思春期の頃、当時の私がアングラな世界を垣間みることができたのは、テレビの深夜番組ぐらいだった。
平成生まれとは言え私が過ごした00年代は、まだインターネッツにどこからでもアクセスできる時代じゃなかった。
うちにもデスクトップ型のパソコンがようやくやってきた頃だったけど、それを使うのは父親の特権でしかなかったのだ。
それを使ってアングラな世界を覗こうとしても、消しても消しても現れてくるポップアップと闘わなければならないし、ヤフーの検索履歴を消し忘れてしまったら最後、SEKAI NO OWARIを意味する。このときの心境は本当にエゲツナイ。
リスクはそれだけではない。
父親の部屋は玄関のすぐ隣なので、「ガチャッ」という誰かの帰宅を知らせる合図がなった瞬間、ウェブサイトをcloseし、PCの電源を切り、自分の部屋までホップステップジャンプを決めなくてはならない。この間約3秒。
当時の私は聡明で、サイトのバックグラウンドでソリティアを起動させる作戦を思いついた。これは誰かが部屋に入ってくればサイトを瞬時にcloseし、さもソリティアを楽しんでいるように見せることができる画期的なものだった。
しかし、人生そう上手くはいかないもので、念のため何度も練習したクリックも本番ではうまくいかなかった。私は姉が部屋に入ってきた瞬間、縮小すべきウェブサイトを拡大してしまったのである。そのとき私は瞬時にコンセントをブチ抜くという強行に出た。追い込まれた人間はなにをするかわからない。
「本番では練習以上の結果は出せない」という顧問の言葉は心に響かなかったけど、私はこのことを通してそれを学んだのだった。
私がアングラな世界にアクセスするための、家族との7日間戦争はPCにとどまらない。
友人の中にはすけべな雑誌を隠し持っている者もいたが、私にはとてもそんな勇気は持てなかった。見つかるのを恐れて生きるなんて耐えられない。
iモードは通信料の課金が恐く、手をつけられない。
必然的に、私はテレビに目をつけることになった。
というのもこの頃、夜のワイドショー「トゥナイト2」を筆頭に、
怪しいバイト潜入レポの「給与明細」や原田泰造が美女を巴投げする「おネプ!」、テレ東はよくキャバ嬢と座談会番組をやっていた。他にもテレ東はドラマ24という枠でちょっとエッチなドラマをやっていたり、男子学生の(いやきっとお父さん世代も)注目の的だった。「やるヌキッ」をやっていたやるせなすは今なにをしているのだろうか?
有り難いことに自分の部屋はあったが、テレビを与えられる程恵まれてはいなかったので、自分の部屋にテレビがある友人が当時は死ぬ程うらやましかった。(この時期はテレビが欲しくてたまらず、おかげでブラウン管テレビに無駄に詳しくなった)
問題はどうやって深夜番組にアクセスするか、だった。
チャンスは全員が寝静まった後にこっそりリビングでテレビをつけることなのだけど、タイミングの悪いときに限って親父が夜更かしするのである。また、マンションなので、明かりや音はつけられないし、寝静まった後も安心はできない。急なタイミングでトイレに起きてくることがあるからだ。
そんな時、画期的なものが世に出てきた。ポータブルTVである。
5インチくらいの小さな画面には、夢が詰まっていた。
あらゆる理由を付けて両親に購入を懇願したが、却下。「勉強しなくなるでしょう」の一点張りだった。おかげでバレるかバレないかで夜中に体力を消耗し、授業中眠くなるという悪循環に陥ったので、結果的にもっと勉強しなくなってしまった。
私がちゃんと深夜番組を見ることができたのは、期間限定で友人のポータブルTVを借りたときくらいだったか。それでも皆が寝静まった後の、布団に潜って音量を極力小さくし、電波の乱れを感じながら、やっとのことだった。
嗚呼、懐かしき日々。
振り返ってみると、この抑圧された青春時代をよく生きのびたものだ。
バブルが崩れ、ベルリンの壁も崩れ、失われた20年のなかで、エロへの有り難みだけは失われなかった最後の世代だったのかもしれない。
時は流れ、どこからでもインターネッツにアクセスできる時代に変わった今、ウェブには「下ネタ」が溢れている。
面白いのは、下ネタが普通のライフハック系のサイトにも頻出することだ。
その多くは、女性に向けたものが多い。
記事を書いているのも女性。女性の立場から恋愛・性について語られたものは現在のウェブメディアには不可欠になっている気がする。
深夜番組の定番であった「潜入」「下ネタ」「アングラ」「座談会」がウェブサイト上で高い閲覧数を得ている。
ウェブコンテンツ全体として深夜テレビ的になっているし、その中で、女性向けのコンテンツが増えたようだ。
昔のインターネットのことは知らないけど、少なくとも最近の状況をそう感じている。
「オモコロ」は男性目線だけど、「AM」や「街角のクリエイティブ」は女性向け。その他数多くのパイラルメディアも「モテテク」の延長線上に下ネタが頻出する。
結果的にこれらのコンテンツは女性だけでなく、女性目線が気になる男からの注目も集めている。やはり人間は、深夜番組的なコンテンツに反応しやすい。
それを証拠に、クリーンな記事を書き続けてきたこのブログのPVは右肩下がりだ。いや上がったこともないのに、下がり続けているのだから、これはもうほんとにやばい。
(内容がつまらないのだ、という指摘はいらない。今だけは目をつぶって欲しい。)
そんな調子だから、最近はたいした内容も記事数もないのに、エロいだけで注目ブログになっているものをみるとムシズが走る。
この調子で拡大していくウェブコンテンツの10年後はいかがなものなのか。
私もこのままでは限界なのかもしれない。時代に追いついていかなければ。
私が下ネタに走ったときは、そのときは察してほしい。
そのときは、そう遠くない気がする。